51年の歴史に幕 額田中学校 敬信寮へ

額田中学校 敬信寮
令和5年度で閉寮した、額田中学校、敬信寮へお邪魔させて頂きました。
こちらの敬信寮は、愛知県内の公立中学校で唯一の寮でした。

額田中学校では、名残を惜しむ方達へ向けて3/16.17.20寮を開放しています。
見学・撮影は自由(撮影した写真や動画をSNSなどに公開はNG)です。
※今回は、開放日のルールに沿って、敷地外から建物の外観のみの掲載にさせていただきます。
詳しくは、額田中学校のホームページでご確認下さい。

貴重な経験をしたので、お礼の意味も込めて敬信寮でのできごとを書かせていただきます。

愛知県最後の寮へ

『駒田さん、今度、額田の寮もなくなってしまいますしね・・・』
「え?愛知県にも寮のある中学校が残っているのですか??」
現在、撮影にお邪魔している県内最後の木造校舎の小学校『田峯小学校』で、先生からちらっとお話を聞いたのが、敬信寮へお邪魔するきっかけになりました。
かつて豊根にも寮があって、その寮で過ごした経験のある先生は『寮の存在も時代の流れで存続が難しい部分もあるのですが、寮生活には良さもたくさんあるんですよ』と思い出を話してくれたのです。

今まで、長野県飯田市の旧上村中学校で寮があったという資料に目を通したり、静岡県の旧小布杉分校の卒業生から「寮生活をしていた」と話を聞いてはいましたが、まだ見たこともなかったので、どうしても見ておきたい、できたら記録に残しておきたいと思い訪ねることにしました。
予定をやりくりしてお邪魔させていただく事ができたのは、3年生が卒寮した翌日2/29。
閉寮式へ向けた準備などで慌ただしい時期でしたが、教頭先生や職員の皆さん、元気な寮生の皆さんに暖かく迎えて頂けました。

敬信寮の様子

卒寮式が終わって残っていた寮生は30数人。
月曜日〜木曜日まで3時過ぎに寮に帰り、そこから部活や式典の準備、食事、入浴、洗濯に、お風呂掃除など、スケジュール通りに規則正しく生活をしていました。
金曜日は、スクールバスで自宅へと帰省して週末は自宅で過ごし、月曜日に登校してきます。
バスは、最長で片道1時間ほどの距離を走るそうです。

『通学が困難な山間部の生徒達のため』の寮ですが、道路や車が発達した現在、いくら山間部といっても、額田という立地はそれほど険しいイメージもなく(実際車を走らせると冬場はとても走りきる自信が持てないような険しい峠がある)、生活をサポートする先生や職員さんの勤務にも宿直などが発生する訳で、今まで寮が残っているというのは相当なことなのだろうなと想像がつく。

『ずいぶん人数が減ってしまったのですよ』
と聞きましたが、卒寮生も含めると50人以上寮生がいたわけですから、僕が想像していた以上に活気があったというのが率直な印象です。

少し見ただけでは書き表せないような大切にしてきたものごとがあるのだろうと感じたので、それを見たくて3月もお邪魔させていただく事にしたのです。

敬信寮 最後の夜

閉寮式に立ち会えるかどうかスケジュールが難しい中、最後の夜になる3/7は幸運にも調整がついた。
二度目なので、寮生の皆さんとも、すっかり顔馴染みになっていた。
この日は、最後の夕食。
食事は、学校の食堂へ移動して決まった時間に食事をする。
夕食後、今までお世話になった調理員さん達へお礼の式典が行われ、僕は、記録に残るようにと思ってその様子を撮らせて頂いた。

そして、寮へ戻り、入り口でお菓子を受け取り、寮生は部屋へ戻っていく。
この毎日のお菓子は、商売を辞めた地元の菓子屋さんが、寮が残っている間はと用意してくれているものだった。

この日は、最後のレク(お楽しみ会)があるので、変則的な時間割になっていたが、慌ただしい中、勉強、お風呂掃除、洗濯、実行委員は準備を行っていた。

僕は、男子側の各部屋を、最後の夜を過ごす寮生達の写真を撮るために急足で回った。
訪ねた先では、皆、元気でしっかりとした挨拶をしてくれて、それだけで少し感動してしまうぐらい。

寮では、スマホも使えない。
部屋は3人で使用しているのでずいぶんゆったりしているが、平日のみとはいえ、家を離れて生活をするなんて中学生の僕にできただろうか?
振り返ってみると、洗濯も、食事の後片付けを手伝った記憶もほとんどない。

こういった環境で生活をしていると、きっと普段からちょっとしたことに感謝ができるだろうし、規律正しく生活する大切さ、お友達(仲間)、先輩や後輩、先生や職員といった大人との繋がりなど、他では得難い経験をして立派に巣立っていくのだなと羨ましく感じる部分があった。

自分のことを振り返ると、ずいぶん甘やかされてきたなと思いながらも、それを許してくれた両親に今更ながら自然と感謝の気持ちも湧いてきた。
あぁ、社会人になってからも、師匠や先輩、仕事をご一緒させて頂いている皆さん、撮影を受け入れてくださっている皆さんにもずいぶん甘やかされて、優しく接して頂いているな。なんて幸せなんだろう・・・

「寮に入るとき、ずいぶん不安だったんじゃない?」
『ほんとにどんなところかと思っていましたけど、あっという間にこんなところだと〜(笑』
『早く家に帰りたい〜!!』
なんて声も聞いたけれど、4泊もするのだから木曜日の正直な気持ちだと思う。

『寮はとっても楽しかったです!』
カメラを向けて撮影させて頂いた寮生の皆さんは、とってもいい笑顔でカメラに収まってくれた。

雑巾がけリレー、寮を使った宝探し、枕投げ、寮生の皆で最後のレクを楽しんでいる様子を見届ける事ができた。
思っていたより遅い時間になり、早朝、設楽へ行き、そこから額田へやってきた僕は、眠気と疲労とこれからまた運転かという少し重い気持ちと、貴重な時間を過ごすことができた満足感を持って寮を出た。
階段を下り、車へ向かっていくと
『さようなら〜』
『また来てください〜』
先ほどまで一緒にいた寮生たちの声が聞こえるではありませんか!!

なんという・・・
「ありがとう!おやすみなさい!」素敵なお友達ができたような嬉しい気持ちになった。

翌日、最後の帰省の様子も撮った。
昨日までとは違い、生活感がなくなったすっきりとした部屋で、自分の荷物をまとめている様子にカメラを向けた。
『楽しかったです!』
寮のことを聞くとやっぱり笑顔になった。

寮生を送り届けるスクールバスの運転手さんが僕に声をかけてくれた。
見せてくださったのはGoogleの敬信寮のレビューページだった。
『私が最初にコメントを入れたのだけれど、今日、そのコメントは削除させていただこうと思います。変わりに、新しく感謝の気持ちを入れておきます』

ありがとう敬信寮

短い時間で、卒寮や閉寮式に立ち会う事は叶いませんでしたが、とても貴重な体験をさせていただきました。
閉寮記念誌を読ませていただくと、寮に対する理解が深まりました。
撮影中、普段身の回りの事がとてもありがたい事なのだと、改めて学ばせていただく機会になりました。

寮という物は無くなってしまいますが、関係者の皆さんが大切にしてこられたものが、ずっと受け継がれていくことを願わずにはいられません。

51年の歴史で培ってこられたものは、時の流れとともに時代に合わなくなっていくものもあるかと思います。
ですが、今だから、これからに向けて必要とされるものもたくさん詰まっているようにも思えました。

僕は、今まで色々な節目の時に立ち会う機会を頂いてきました。
カメラを持っていなかったら、出会うこともなかった、知らなかった筈の人達の生活や価値観があり、その人達が大切にしてきたものの良さや尊さを見せて頂いてきたように思います。
不完全ではありますが、感じた事をなんらかの形で伝え、知って頂く事も大切な事だと思います。
そして、その存在を知って頂けたら、関係者の方々にとっても喜ばしいことになるのではないかと考え、感謝の気持ちを持って書かせていただきました。

『ねえ!卒業式も来てくれる?』
「えー?来年じゃない??いや、ひょっとして再来年??」
『来年?再来年だっけ??』
(笑
「うーん、いいって言ってもらえるかな??予定が合いそうなら先生にお願いしてみる!」
最後の元寮生が卒業式を終えた時の笑顔はどんな感じだろう?
式が終わった後、集合写真を撮れたらとイメージすると楽しい気持ちになれた。

快く受け入れてくださった額田中学校の皆さま、敬信寮の皆さま、よい経験、よい思い出をありがとうございました。
またいつか、額田の皆さまとお会いできますように、そして喜んでいただけるような写真が撮れますように。
額田中学校が、ますます素敵な中学校になっていきますように。

masaki
駒田匡紀(こまだ まさき) フリーカメラマン。 撮影や取材のご依頼など、お問い合わせはコンタクトフォーム、メールをご利用いただけます。

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